とりプロなう86号

選挙市民審議会 第16回 第2部門審議会開催

2017年8月22日、日本民主法律家協会事務所会議室にて、とりプロ選挙市民審議会の第16回第2部門審議会が開催されました。

この日の審議内容は、参議院改正案の方向性を一つに絞るべく三人の委員の案と自由法曹団の案について審議をしました。

また、衆議院についてもいくつか詰めの作業を進めました。

太田光征委員

 

衆議院選挙制度の際に提案した「中選挙区比例代表併用制」の変法を参議院で提案したい。全国一区の比例名簿にしながら、現行の都道府県単位の区割りのままの「選挙運動区」を設ける。候補者の選挙運動は都道府県に限るという提案をしたい。自由法曹団案の7ブロック大選挙区単記制では青森・秋田・山梨・福井・佐賀の各県から、自民・民進の当選議員がいなくなるという試算あり。また死票が多い。

田中案の衆参の役割分けは憲法に触れないか。参院に新たな役割がなくても二院制の存在理由はある。

選挙制度改正で「専門性の高い個人を選ぶ」という目的達成は困難。多元的民意の反映を重んじる有権者は、衆参で与野党間のバランスを取る傾向がある。

衆院選挙制度のブロック区割りはなるべく小さくし、全国集計で。小澤案の「沖縄だけでブロックを作る」と定数5議席程度の小さな選挙区になり、他の選挙区との格差を生む。比例方式としてはドント式よりも最大剰余法を。第1選好・第2選好までを投票し移譲できるように。

 

  

 

 

田中久雄委員

 

衆院選挙制度を比例代表・政党重視とした場合参議院の存在意義は。カーボンコピーでは「参院不要論」に流される。

政局や政策論争から一歩離れた、基本的・長期的・総合的プランニングをする立法府としての役割を新たにしてはどうか。たとえば、現行の国会委員会制度を改めるという前提で、100名程度の少数精鋭で識見の高い専門家を、人物本位の選挙で選ぶ。これは憲法の範囲内の役割分け。多数制か比例制かは留保したい。ブロック数は少ないほうが良い。

桂案の男女同数については、男女だけの平等で良いか。LGBTはどうなるのか。他の少数者にも議席を割り振る必要が出た場合の考え方は。

自由法曹団案の20名程度の改選では、政党による票割り(地域割り・業界割り)が起こりやすい。

衆院選挙制度について、全国集計の根拠の一つは阻止条項。比例の方式も含め、どこまで小政党に配慮するかを考える必要あり。定数5の沖縄ブロックは歴史的経緯を鑑みると可能。北欧には比例でも定数1という選挙区すらある。投票行動に選好順位を付けることまで求めるべきか。

 

 

桂協助委員

 

参議院選挙制度は、「中選挙区男女同数制」を提案する。参院定数を衆院定数の三分の二とし、仮に参院320名と衆院480名とする。8人区(改選4名)・10人区(改選5名)・12人区(改選6名)に選挙区を設定する。男性枠・女性枠を設け、改選・非改選を合わせれば必ず同数になるようにする。憲法44条の趣旨に沿う。政党「公認」を避け、せめて政党「推薦」程度にとどめられないか。人物本位の「良識の府」の再建へ。

参議院の役割を、個人の視点に立ち、人権・芸術・教育など普遍的課題の立法府とする。政党政治の偏りを参院で是正する。

自由法曹団案のように選挙区サイズを大きくすると専門性の高い議員は選ばれやすいが、すぐに業界団体などが入り込む。他方、市民運動は盛んになるとは思う。

前回決議された衆院田中案(比例代表一本)に、移譲式の選好順位投票の入り込む余地があるのか。全国集計かブロック集計かについては次回に決議してほしい。

 

 

  

 

山口真美委員

 

自由法曹団の参院選挙制度案2014年版は、7ブロックに分けた大選挙区単記非移譲式。定数を現行どおりの242議席(改選121名)とし、44人区(改選22名)から22人区(改選11名)までの7選挙区。

理由付けで過去の参院が果たした独自の役割についても解説している。参院の意義には、解散がないこと・任期が長いこと・政局に影響されにくいことがあげられる。政党よりも個人を選出という考え方がベースにある案。定数が少ないほど政党に有利になるから。また、一票の格差訴訟・違憲判決に対する答えでもある。

桂案の男女別枠であると、同一選挙区から当選しても男女で得票数に差が出る。また男女という二つの性だけで良いのかという議論がありうる。

衆議院選挙制度について、死票をなるべくゼロにすることだけが最高の価値ではない。小選挙区制ではなく比例代表制を取ればかなり死票課題は改善する。選好順位投票には反対。アイルランドと状況が異なる。また、有権者が一つの選択をすることに意義がある。

 

 

 

 

小澤隆一委員

 

参院選挙制度。太田案について、「選挙運動区」の縛りは一人候補にとって厳しい。

桂案について、男女同数を公職選挙法で定めて良いのかという問題がある。色々な影響が出る荒療治だ。むしろ政党に対して男女同数を促す法改正の方がソフト。

田中案について、定数は減らさない方が良い。参院の緊急集会の場合、さらに衆参同日選挙の場合でも立法府・合議制を維持するだけの人数が必要。また、立法府としての自覚を促し、大臣も輩出しない方が良い。

衆議院のブロック制は、現行の11ブロックのうち沖縄だけを九州から独立させる12ブロック制を提案したい。基地課題終了までの時限立法としても面白い。ブロック集計が自然。選好順位投票は、有権者に「アンケート」と受け止められないか。選択の自覚を促す一票制が良い。

 

 

 

 

 

 

小林五十鈴委員

 

参議院選挙制度の桂案について、男女同数を公職選挙法に書き込むのが良いのかどうか。女性議員を増やすように政党に努力させる方向で考えている。

田中案・桂案に関して、専門性の高い人が参院議員になることに賛成。

「出たい人より、出したい人を」というスローガンもあった。みんなが関われるような選挙にしたい。

あまりにも一票の格差是正が強調され、区割りがころころ変わることで、議員も有権者も混乱気味ではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

只野雅人共同代表

 

参議院選挙制度の太田案については、「選挙運動区」という縛りに疑問。インターネット選挙もあり、また当審議会としては選挙運動の縛りをなくそうという方向。

田中案について、現行国会の委員会制度については、以前から課題を感じていたので、問題意識は共有している。

桂案については、男女同数制の導入は、フランスの例を見るように、憲法改正を要する可能性が高い。かつての衆院中選挙区制の同士討ちという弊害をどうすべきか。

自由法曹団案は桂案と近いが、選挙区のサイズが異なる。

政党政治である限り選挙から政党色はなくならないが、できるだけ薄める努力が必要。

参議院選挙制度案は大選挙区単記非移譲式の方向で。ただし選挙区定数を次回部門決議する。

衆議院選挙制度案は、名簿組み換えを自由にした比例代表制。選挙区のサイズ(改選4-6の中選挙区、改選11-22の大選挙区等)、比例方式(ドント式、最大剰余法等)、集計方式(ブロックごとの集計か、全国集計か)、調整議席の要否などを次回部門決議する。

議員定数については、衆600・参300(只野・小澤)、衆480・参320(桂)、衆600・参100(田中)などが出ているが、各委員の宿題として持ち寄って次回決議する。

 

 

城倉啓 とりプロ事務局長

 

自由法曹団案は、衆議院を比例代表制一本(17ブロック)にし、その裏返しとして参議院を大選挙区単記非移譲制としている。その点で当審議会の今までの議論と重なるので非常に参考となる。

委員会制度の改善等の国会法改正に踏み込む内容は、今期最終答申には方向性のみ示して、次期審議会で提案していくことができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

【まとめ】

参議院の改正案の大まかな方向性は、「政党ではなく人を選ぶ」という側面を重視し、「大/中選挙区単記制」という大まかな方向性まで定まりました。

衆議院の改正案は、「沖縄を独立したブロックとすること」の是非や(可能との多数意見)、選好順位をつけた移譲式投票の是非(導入しない方が良いとの多数意見)が話し合われました。

9月に衆参の選挙制度について部門決議をし、10月・11月に他の部門とのすり合わせを行う予定です。

  

 

  

【今後の選挙市民審議会の予定】

8月28日(月)15:00-17:30 第1部門審議会 衆議院第2議員会館 地下1階 第6会議室