とりプロなう106号

2019年2月26日、第二期選挙市民審議会の第12回目の審議会が開催されました。

この日のテーマは「罰則規定」。早稲田大学社会科学総合学術院教授(専門は刑法)の仲道祐樹さんをお招きして白熱の議論が展開されました。

 

        仲道祐樹さん
        仲道祐樹さん

仲道祐樹さん

 

犯罪には、自然犯と法定犯の二類型がある。選挙市民審議会の方向性は、公職選挙法の中の選挙運動規制のような法定犯を廃止し、残る自然犯を刑法典に移行というもの。これが刑法学の側から可能か。

理論的には可能だが、立法にあたってのハードルは相当に高い。

公選法は、罰則規定を含むので「特別刑法」の一つ。刑法典総則の各規定は特別刑法にも及ぶので両者に特別の差異はない。

過去に刑法典に追加された事例、刑法典から特別刑法に移動した事例はあるが、特別刑法から刑法典への移動事例はない。ドイツでは刑法典内に選挙犯罪が盛り込まれている。

特別刑法には、下位法令への委任ができること、目的規定に基づく規制ができること(公選法にも)、行政の介入といった段階的規制もできるといった特徴がある。

公選法内の選挙運動規制・選挙犯罪のみを廃止する必要性は、議論が立てにくい。「選挙に関しては全部公選法」という一望性をなぜあえて失わせるのか。

公選法は国政に限定し自治体選挙は条例で規制するという改正もありうるが、その場合地方自治法との関係調整も必要。また、同じ選挙犯罪でも国政選挙と自治体選挙で法定刑が異なってしまうという課題も(公選法229条と刑法208条)。

刑法典にどのような犯罪類型を移動しうるかの吟味・選定も必要。どの条文の並びになるのか。

ドイツでは刑法典の107条。憲法上の機関に対する犯罪の後に選挙犯罪が入れられている。日本ならば刑法95条の公務執行妨害、197条・198条の贈収賄罪の後に入れ込みうるかもしれない。

特別刑法には2条・3条あたりに定義規定があるが、公選法には「公職」の定義しかない。行動準則は可能な限り明確でなくてはいけない。判例が存在しないと条文の意味が確定しないということ自体には問題はない。しかし、立候補者・運動者が条文を読んで「自分の行為が事前運動にあたる」との意味に辿り着けない場合は問題。

選挙が公正に行われるために何が必要か。本当に民主的選挙とは何か。何がそれを害するか。そのうちのどれが悪質か。選挙犯罪を刑法典に移すというのであれば、この点の検討が必要。現在の公選法が、禁止・規制が先にあって、その実効性を担保するために罰則を置いていることと視点が異なる。

手続規定と罰則規定を別にするのは可能だが、なぜ分ける必要があるのか。選挙という対象は共通しており、両者はオーバーラップする。国会で片方が通らない場合もありうる。

刑法197条2項の事前収賄罪は、すべての立候補者の買収を捕捉しない。同130条住居不退去罪はしつこい戸別訪問を捕捉しうる。脅迫罪・強要罪は「暴行・脅迫」を要件とするので、文脈による。おとり罪も刑法典にはまらない。選挙の自由妨害は既存の犯罪類型でも相当程度捕捉できる。投票の秘密侵害は処罰しないわけにはいかない重大な犯罪だが、刑法典上の犯罪類型ではうまく捕捉できない。

       三木由希子共同代表
       三木由希子共同代表

 

三木由希子共同代表(議長)

 

個別法を新設する場合、公選法に禁止規定がないと移せないのか。

刑法典でカバーできるものを、目的規定に照らして特別法で加重に処罰できるという理解で良いか。

      片木淳共同代表
      片木淳共同代表

 

片木淳共同代表

 

「政令委任だから刑法典から外す」は理屈に合わない。政令委任を前提にしている。刑法典にきっちりと書けば罪刑法定主義に触れずに政令委任ができるのでは。

公選法全廃ではなく運動規制を全廃し、ドイツのように手続規定に。ドイツではどの条文の並びに入っているのか。

        田中久雄委員
        田中久雄委員

 

田中久雄委員

 

公選法は「べからず集」。しかも「選挙運動」「政治活動」の定義規定もない。最高裁判例で運用されている。何が「事前運動」に当たるかも分からない。立候補者が何をして良いか悪いか分からないまま準備をして、選挙後に摘発ということもある。

また、地域の選管によって運用もばらばら。

        坪郷實委員
        坪郷實委員

 

坪郷實委員

 

選挙手続きのみを規定した「選挙法」の新設は可能か。国政選挙のみを取り扱い、自治体は条例でも良いか。別に、公正な選挙を実現するために何を禁止するべきかの罰則規定を設ける。

       小林幸治委員
       小林幸治委員

 

小林幸治委員

 

刑法典に移すかどうかはどちらでも構わない。わかりやすいルールに則って運動がなされ、違反したら警察が取り締まる。地域差が出ないように、現在の罰則のどこを残すのかの吟味の作業をすべき。「べからず集」で警察も困っているという現状がある。立法技術については実現可能性を踏まえた議論を。

       岡﨑晴輝委員
       岡﨑晴輝委員

 

岡﨑晴輝委員(スカイプ)

 

仲道さんに全面的に説得された。刑法典への移行は無理ではないか。むしろ公選法の改正をすべき。

      桂協助事務局員
      桂協助事務局員

 

桂協助事務局員

 

選挙犯罪のうち、贈収賄/買収、過剰な選挙運動(しつこい戸別訪問、思想信条の押し付け)、選挙妨害等は刑法典で対応できるのか。

       城倉啓事務局長
       城倉啓事務局長

 

城倉啓事務局長

 

3月の審議会では、国政選挙と地方議会選挙の積み残し課題の整理(事務局)。

4月の審議会で現在の公職選挙法の罰則について吟味することとしたい。担当は坪郷委員。

請願法改正については、国会改革の視点を交える必要から、5月の審議会に(小林幸治委員・大山礼子委員)。



 

【今後の選挙市民審議会の予定】

 

*3月12日(火)10:00~12:00 衆議院第2議員会館 B1 第5会議室

 公費負担・政治資金・政党助成作業部会(三代表、小林幸治・坪郷委員+α)

 

*3月18日(月)15:00~17:00 衆議院第2議員会館 B1 第2会議室

 罰則規定改正案(坪郷委員)

 地方議会・首長選挙に関する声明(決議予定、桂協助)